「神木部長に、少しでも大人の女に見られたくて。振り向いて欲しくて、変えたんです」

 部長の表情はひとつだって変わらない。それどころか「何度も言ってるけど、そういう冗談はいい加減にしなさい」と怒られてしまう始末。

「冗談なんかじゃないです!」

「冗談じゃないなら、ただ上司をからかってるのか?」

「そんなわけないじゃないですか。私は、ただ……」

 〝部長の事が好きなだけです〟と、言おうとした私の言葉を遮り、部長の携帯の音が鳴り響いた。

 プルルル、と鳴り響く携帯を胸ポケットから取り出した部長は、ディスプレイに表示された名前を見ると「立川、悪いけど少し外して」と素っ気ない態度。

 私は、渋々頷いて部長室を後にすると、自分のデスクへと向かって歩いた。


「おっと、どこのお姉ちゃんかと思ったら立川ちゃんか。髪型変えて、良い女になったじゃないか」

 自分の席に向かう途中、デスクで作業をしていた田口さんが私を引き止めた。

「そうですか?」

 良い女になったと言われたら、そりゃあ悪い気はしない。だけど、どうも今の私の気分はさほど上がらなかった。

「とっても似合ってるよ。前より、落ち着いて大人っぽくなったと思うよ」

 お世辞なのか本音なのかはともかく、田口さんはすぐに変化に気づいてくれた。そして、私が欲しかった言葉もくれたのに。どうしてこうも部長にだけは響かないのか。