「挨拶も?」

 部長は私を見て首を傾げる。きっと、私のヘアスタイルの変化には気づいてるはずなのに、言いたいことを分かってくれない……いや、分かろうとしてくれない部長に、私はまた肩が落ちた。

 明るいミルクティーブラウンの巻き髪から、落ち着いたアッシュ系のブラウンの髪色に変え、しかも、巻き髪だっていつもよりゆるくウェーブする程度にしたのだ。リップだって淡いピンク色にしてみたし、少なくとも以前よりは大人らしくなったはずなのに。

「……髪型、変えたんです」

 段々と自信がなくなりつつあった私は、小さな声でぼそりと呟いた。

「知ってる」

 俯いていた私の頭上から聞こえてきた部長の声。私がゆっくり顔を上げると部長は「随分落ち着いたから驚いた」と言って笑う。

「どうですか? 似合ってますか⁉︎ 私、大人っぽくなりましたか?」

 これだけ雰囲気を変えれば誰でも気づくはずだけれど、部長が気づいてくれていたという事実は想像以上に嬉しくて、私はぐいぐいと部長に迫った。

「立川、一回落ち着け」

 神木部長は、私を宥めながら、一歩、二歩、後退りをして立ち止まる。

「部長のために、変えたんです」

 部長に迫る足を止め、真っ直ぐ部長の瞳を見つめたままで私は言った。だけど、部長の目は、ひとつも揺らがない。いつも通りだ。