ひとつ、ふたつ、みっつ、といつもよりもテンポ良く心臓が脈を打つ。私は、すう、と息を大きく吸い込んでから吐くと、部長室の入り口前に立った。

 トントン。

 解放されている扉のそばの壁を叩くと、中にいて窓の外を見ていた部長が振り返った。

「失礼します」

 そう言って入った私は、部長がどんな表情をしているのかが気になり、床に向けられていた視線を上げてみた。

 すると、一瞬、部長が目を見開いたような気がした。しかし。

「おはよう」

 部長は、またいつもと変わらない表情に戻り、朝の挨拶だけを発した。

「おはようございます」

 完全に髪型のことに触れてくれるかと期待していた私の肩が落ちた。

 何となく納得がいかず、その場に立ったままで部長の次の言葉を待った。私の眉は今、少しだけ八の字になっているような気がする。

「なに。どうした。今日は、毎朝恒例の挨拶しに来ただけじゃないのか?」

 その場を離れることもせず、あからさまにつまらないというような表情をしている私を見兼ねたのか、部長が私の顔を覗き込むようにして言った。

 確かに私は、部長を好きになって以来、毎朝部長室へ挨拶をしにくるのが日課になっている。だけど、今日はそうじゃない。そうじゃなくて。

「挨拶も、しに来ましたけど……」