ある日…、




陽音は、
ワールドツアーを終えてのインタビューや
撮影の仕事の後、

隣への移動で 徒歩で建物を出ると、

何故 知っていたのか、
出待ちをしていた 若い女性たちに囲まれた。



今まで、コンサートやイベント終わりにはあったが、
今日は、わざわざ公表などしない、通常の仕事。

しかも、
新しい依頼で、その日 初めて来た場所で、

そこでの出待ちで、陽音の名前を呼ぶ、
見馴れない人達。


陽音は、違和感を覚えながら……






陽音は、
イベントの時は、ひとりずつ 顔を見ながら
全員と握手をするので、印象に残っている。



配慮してくれる 礼儀正しいファンの方々とは、
また違った雰囲気の彼女らに、

最近 知ってくださった人達だろうか…と、
違和感を感じながら、



陽音は、
次々に求められるサインに熱心に応え、
会釈をし、立ち去ろうとした。

すると、
歩調を合わせて、ついてこようとする。


次の仕事は、すぐの隣の建物なので、
また、知られてしまうのも、困る。

タクシーに乗って撒いたとしても、
すぐ隣の距離。

誰かに迷惑を掛けるような、
そんなことも出来ない。


陽音が、模索し 対応するなか、

状況を把握し迎えに来たマネージャーの車に乗り込み、
その場を後にした。








そして、その夜…、




ツアーで演奏した曲目を収録するという
アルバム作りの打ち合わせや音合わせを終えて、
自分の車でスタジオから出ると、
今度は、車の前に 突然、人集りが。



後車に着いていたマネージャーが、
降りてきて、人払いの対応を丁寧にする。



マネージャーの早い対処で、
陽音は、スムーズに、その場から去った。







翌日は、何事もなく、


翌々日からの2日間も、
いつもと変わらぬ平穏な日常で、


陽音は、マネージャーと、

“あの日だけだったなぁ、なんだったんだろな。
でも、良かった”と、

いつもの日常に戻ったと思い、安堵した。





しかし、


ホッとしたのも束の間。






また、別の日。



今度は…、


二車線の たまたま先頭で信号停止をしていると、
横に並んだ車から、
自分に向かって何やら言っているのを、
陽音は、目の端でチラチラと感じ…。


見ると、数名の若い男女が 何かを言いながら
揃って自分を見ていることに、陽音は、
何事かと、驚く。


彼らの 徒ならぬ様子に窓を開けてみると、

「香大さ~ん!ピアノ聴いてまぁす!」と叫ぶ男性や

「陽音さ~ん!」と、名前を呼ぶ女性の声が

飛び込んできて、

陽音は、更に驚かされた。



何事かと、
真剣に思ったので 窓を開けたのだが、
そういうことか と、
芳しくない出来事の訪れに、
陽音は、苦笑いする。





それにしても、何故なんだ…と、思っていると、



「結婚しないよねー!」と叫ぶ女性の言葉に、



“なるほど、今回の件で…”と、


事の理由を理解しながらも、
芳しくない事態に、
そんなことを言われる所以はない……と念に。




陽音は、笑みを浮かべて会釈をし、窓を閉めると、
信号が青へと変わると同時に、車を発進させた。


すると、

彼らの車が、付いてくる。



流石に、
こんなことは初めてで…。



恵倫子の家へと向かうつもりなのだが、
付いて来られて、家を知られては困る。


陽音は、どうしようか…と、
回り道をした。


彼らの車は、ずっと付いてくる。


自分の自宅兼オフィスを知られるわけにもいかないので、帰宅も出来ず…



陽音は、車を撒こうと 愛車を加速させた。


彼らの車は、負けじと付いてくる。


“しつこいな…”



陽音は困りながら…

グルグルと回り道や遠回りばかりをしていて、
時間ばかりが過ぎた。




流石に困り果て、
陽音は、どう対処しようか…と考えながら、
彼らの車を撒こうと、脇道へと
再び 愛車を加速させる。




すると、
やっとうまく撒けたのか…
諦めたのか…



後ろに彼らの車はなく、
陽音は、ホッと 胸を撫で下ろした。




「ありがとう。お疲れ様」


陽音は、快適なドライブじゃなかったな…と、
無理に走らせ 加速し続けた愛車を、労う。





こんな日が続き、

陽音は、恵倫子と会えない日々が続いた…






ーー