「いいよ、別に」


暫くして諦めたように男の声がした。

擦っても擦っても唇の跡は落ちなくて。

むしろリップが広がってしまったような…


「もう落ちないよ、これ」

「………本当にごめんなさい」


な、なんて脅されるんだろう。

ビクビクと震えて男の顔が見れずに居ると、
突然ぎゅっと手を握られた。


「!?」


ひっ!どっかに連れていかれる!?
だ、誰か……!!

なんて思ってると…


「ほらもう、手が冷えてんじゃん」

「え、手…?」

「こんな寒空の下で手を濡らすなよ」


女なんだから。

そう言いながら男はガサッとポケットから何やら出して、私の手のひらに乗せた。