土曜日、海斗は駅の改札で愛海を待っていた。
「ごめん、海斗遅くなって」
「おせーよ、5分遅刻」
「だからごめん」

「帰ったらお仕置きな」
愛海の耳元で囁いて、頭をぽんぽんする。
「つ!もう海斗は」

改札を通りホームに向かう。
「愛海」
「ん?」
「今日の服可愛いよ」
さりげなく愛海の手をにぎる。花柄のワンピースを着ていた。

「なに海斗、どうしたの?」
「思ったこと言っただけだろ。素直になれよ、バーカ」
「そんな直球だ言われると照れるよ」

「俺の方が恥ずかしいんだからな」
「ありがと」
「ああ。ところで花見どこ行くんだよ?」

電車の中で。
「まずは深沢公園。あそこ池あるしボート乗りたい」
「ちょっと待てよ、まずはって何ヶ所行く気だよ?」
「3ヶ所」
「は?飲み屋のはしごじゃねえんだから」
「桜沢山見れていいじゃん」
「まあ、いいけど」

電車に揺られて30分程で着いた。地下から階段を上がり、青空を見上げる愛海。

「うわー、綺麗な空!」
周りは凄い人混み。

「ほら、迷子対策」
海斗は愛海に手を差し出す。
「ありがと」
「お前、方向音痴だから繋いどかないとどこ行くか分かんねえからな」
「酷い、そんな言い方」
頬を膨らませる。

「そんな顔してると可愛い服が台無しだぞ」
ふくれっ面の愛海の唇に触れるだけのキスをした。

「ん......今のなんのキス?」
「えっ?なんのってお前がもっと可愛くなるために決まってんだろ!言わせんなよ」
海斗は自分が言った言葉に照れていた。

「あっ、海斗照れてる、可愛いー!」
「お前なあ、男に可愛い言うなよ」
「なんでよ?そう思ったから言ったんだけど」
「可愛いはお前につかう言葉だろ。ほら、行くぞ」

べた褒めする海斗の気持ちが嬉しくて、繋いでる手を強く握り返した。

満開の桜が2人を温かく迎えてくれた。

ボート乗り場に来た2人。他にも5組のカップルが列に並んでいた。2人の番がきて、先にボートに乗る海斗。
「よっと!ほら、手出せよ」
少しボートが揺れて、乗るのに戸惑っている愛海。

「ちょっと揺れてる」
「大丈夫だって、ほら!後ろの人が詰まってるだろ」
渋々手を出してボートに乗る。

足を乗せたら、ボートが少し揺れた。
「きゃっ」
海斗にしっかり掴まった。

「大丈夫だよ、怖がりだな。愛海は」
「だって、揺れてる」
「じゃ、怖くないようにしてやるよ」

海斗は立ったまま愛海の口を塞いだ。
「ん......」
「どうだ、もう怖くないだろ?」
「うん......」
周りの孫気になり恥ずかしがる。
列に並んでる人達が、2人に注目していた。

「ほら、座れ。ボート漕ぐぞ」
「うん、皆んな私達に注目して恥ずかしかった」

ボートを漕ぎだす海斗。
「そんなの気にするな。所詮カップルなんて自分達の世界に入ってるんだから、もっと堂々としていいんじゃねえか?」
「そっか、ありがと海斗。優しいんだね」
「バーカ、そうするのは愛海だけだ」

愛海は、海斗の言葉に自信が持てた。
海斗に笑顔を向けた。
「お前、その笑顔反則」
「えっ?」
「お前にドキッとした。桜すげえ綺麗だな!」
「わー、下から見る桜も綺麗」
「ああ」
「ボートに乗って良かった。ありがと海斗」
「いや、俺は何もしてないよ」

「してるじゃん、ボート漕いだり私の為に頑張ってくれてる」
「バーカ、お前の為に俺が頑張るのは当たり前だ。恋人ってそんな存在だろ?違うか?」

愛海は、次々出てくる海斗の嬉しい言葉に感動して目が潤んだ。
「っ!お前なに泣いてんだよ」
「だって、海斗嬉しい事ばっかり言ってくれるから感動しちゃった」

「そんなに嬉しいか?」
「うん、池に浮かんでる桜綺麗」
「泣きながら、桜綺麗とか言ってんじゃねえよ」
涙目になっている愛海。

ボートの周りは、サクラで埋め尽くされていた。
「ちょっとこの辺で止めるか」

何組かのボートから離れて雰囲気を作る海斗。
「それにしてもすげえ綺麗だな」
愛海はまた、海斗に笑顔を向けた。

「やべ!」
「どうしたの?」
「桜が綺麗すぎて愛海にキスしたくなった。いい?して」
「う、うん」
少し照れる愛海。

海斗はボートを揺らさないように、愛海に近づき触れるだけのキスをした。
「ん......幸せ私」
「幸せにしてやったんだよ。俺の愛海だからな」
「海斗......」
愛海の頬に一粒の涙が流れた。

「また、泣きやがる」
「海斗の為に泣いてるんだから」
「あ、ありがと」


今度は、愛海から海斗の唇にキスした。
「ん......愛海」
「海斗、好き」
「もう一回言って?」
「好き」
「俺も」

海斗は愛海に長いキスをした。
2人、次のお花見場所へと向かった。