雨が降る街で僕は今日も古びた汚らしいカフェのドアを開ける。湿気と珈琲の匂いがする店内で彼女の笑顔だけが輝く。客もいないのに外を見ては微笑む。今日も君はいつも通り。苦しくなるほど僕は悲しくなる。

「いらっしゃいませ!何になさいますか?」

「…珈琲」

いつも通り珈琲だけを頼む。そして彼女は僕に微笑むのだ。ただ無邪気に曇りの無い笑顔を向けて。

「珈琲です!お客様このカフェに来るのは初めてですか?」

「…あぁ、初めてだよ」

そう、初めてだ。君に会うのもここの珈琲を飲むのも。でも明日もきっと来るさ、そしてまた初めてだと答えるんだよ。

「ですよね!見たことないお客様だなぁと思ったんですよ!」

「…初めてだからね」

「ふふっ、そうでした」

もうそろそろ時間だろう。今日も終わり、彼女ともさよなら。あぁ、また明日。僕はどうすることも出来ない。

「あっ!すみません、お店閉めさせて貰いますね。これから用事があるんです」

頬を赤らめ君は恥ずかしそうに笑う。あぁ、知ってるよ。何回聞いたと思ってるんだ。また明日会いに来るよ。

「ありがとうございました!良ければまた来てください!」

「…また明日」

君は道路に飛び出していく。そこにはトラックが。またこの景色だ。彼女の驚いた表情、鈍い音、ブレーキの音、そして周りの声。さようなら、また君を救えなかった。僕はどうすればいいんだ。

僕は今日も雨が降る街で古びた汚らしいカフェのドアを開ける。そこには、また君が待っているんだ。