それにしても。
一人前にしては多すぎないか。
まさかこんなにボリュームのあるものだとは思わなくて、半分ほど食べたところで手が止まる。
ふと店内を見渡してみると、数組いる客たちのもとにあるメニューはどれもボリューム満点だ。そして、皆いたって普通に食べている。
常連客の多い店なのかもしれない。
そんなことを思って、もう一度目の前にある皿を眺める。
ごめんなさい、ちょっと残させてもらいます――。
そう心の中で手を合わせて、伝票を持ってレジへ向かおうとした時だった。
「あんたさ。頼んだ料理を半分も残すなんて、失礼もいいところじゃないか?」
その声に振り向くと、薄らと無精ひげを生やした長身の男が立っていた。
「え……、な、何ですか?」
会ったこともなければ見たこともない、間違いなく初対面の人。
そんな人に突然厳しい口調を投げかけられて、唖然とする。
「いくら女にしては多い量だからと言って、少しでも残す量を減らしたい、っていう心遣いはないのか? そういうの、人間性が出るんだよ」
「な、どうして、そんなことあなたに言われなければいけないんですか? 私は、このお店が初めてで、まさかこんなに量が多いとは思わなかったんです。もちろん、申し訳ないと思っています。でも、だからって人間性まで否定される覚えはありません」
そう、この人は初対面だ。
それなのに、どうして私はこんなにも感情的になって言葉を返しているのだろう。
たとえ腹が立ったとしても、ただ一言「すみません、どうしても食べられなくて」と言っておけばいいのだ。
でも、目の前に立つその男があまりにも当然のように見下ろしてきて、当然のように声を掛けて来るから、言い返さずにはいられなかったのかもしれない。



