壁に身体の重心をすべて預け、後は、暁さんになされるがままにキスを受ける。

優しく味わうように、上唇と下唇を交互に啄ばまれる。


本当に、暁さんに食べられているみたい。
自分の唇が、まるでチョコレートにでもなったみたいに。


唇をなぞるように舐められて。
柔らかな感触に酔いしれる。


ただ唇が重なっているだけなのに、どこもかしこも繋がっているような感覚に陥って。


抱き合うのと同じくらい、気持ち良かった。


「……可愛いな。俺のゆかりは、可愛い」


唇で唇を挟みながら囁くから、少しくすぐったい。


「……ん」


だから、ぴくんと肩を跳ねさせてしまう。


他人から見れば、十分すぎるほどに大人と言われる年齢だけれど、
暁さんといると、小さな子どもに戻ってしまったみたいになる。

それと同時に、幸せな気持ちでいっぱいになる。


「俺は、おまえがいい。おまえみたいなおまえが、いい――」


甘く甘く、暁さんが囁く。


初めて暁さんに会った日、あの海で、弱音を曝け出して泣いた私に暁さんが言ってくれた言葉を思い出す。


――必ず、アンタがいいっていう男もどこかにいる。


恋にも仕事にも破れたボロボロの私に言ってくれた、暁さんの、無責任で温かな言葉。


「――ここにいましたね」


少しだけ唇を離し額をくっつけ、ふふっと笑った。


「ん?」

「いえ、こっちの話です」


思わずこぼれてしまう笑みは、幸せの証なんだと思う。


「……あれは」


暁さんがぎゅっと私を抱き寄せる。
そして、低くて温かい声で囁いた。


「あの言葉は、俺のことを言ったんだ」

「えっ?」


驚きのあまり暁さんの顔を見ようとしたけれど、抱きしめられている腕の力が強くて身動きが取れない。