結局土曜日は昼過ぎまでベッドでまどろんで。
二人で遅い昼食を食べた。
「そうだ、暁さんに渡したいものが」
家にあるもので適当に作ったパスタを食べ終えた後、数日前に買ったものを暁さんに差し出した。
「なんだ?」
ブラックの包装紙にゴールドのリボン。
大人っぽいラッピングに一目ぼれして、迷わずそれを手に取った。
「ちょっと、早いですけど。バレンタインデーのチョコレートです」
「バレンタイン?」
暁さんが驚いたように、その包装紙と私を交互に何度も視線を動かしていた。
「そうです。バレンタイン。当日は平日だから渡せないし。確か、チョコレート嫌いじゃなかったですよね?」
「あ、ああ……。それにしても、バレンタインでチョコレートをもらうなんて何年ぶりかな。なんか、気恥ずかしいな」
俺も、歳取った。なんて、ぶつぶつ言いながらしみじみとその包装紙を見ている。
「いいから、もらってください」
「じゃあ、せっかくだから、ゆかりが俺に食べさせて」
「へっ」
なんですか、その展開は。
たった今、気恥ずかしいと言ったのはあなたじゃないの。
すぐに意地悪なことを思いつくのは、さすが暁さんだ。
「そ、そんなの。子供じゃないんですから、自分で食べてください」
「俺にくれたものなんだからこのチョコレートは俺のものだよな? だから、このチョコレートをどうしてほしいっていうのも俺の権利だ」
我が物顔でそんなことを言い出すから、呆れてしまう。
「そんなめちゃくちゃな論理ないです」
「いやだ」
「もう、暁さんのこと大人だと言ったのは撤回します。本当の暁さんは、子供っぽかったんですね」
一瞬、私の指で暁さんにチョコレートを食べさせる図を思い浮かべて、勢いよく頭を振った。
そんなこと、出来ない。出来るわけない!



