とりあえず何をしようか。

そう思った途端にお腹が鳴った。
昼食にはまだ早いけれど、空腹には違いない。
そう言えば今朝は朝食を食べていなかった。

まずは腹ごしらえだと、改札をくぐり抜け食事を出来るところを探した。

こうなったら、いつもの自分では絶対にしないようなことをしてみたい。


海の方向に向かって適当に歩いていると、初めての人間には決して入り易いとは言い難い喫茶店を見つけた。

中に客がいるのかどうかを、通りすがるふりをして様子をうかがってみる。

日頃は、人の出入りがそこそこある見るからに客がいる店に入りたくなるところだが、思い切ってそのドアを押してみた。

ちりちりん、とベルが鳴る。

店内は思っていた以上に広々としていて、古いけれど温かみのある雰囲気にいくらかホッとした。


ソファ席に座り、昔ながらのナポリタンを注文する。

注文を取りに来たのと同時に持って来てくれたお冷を飲むと、大きく息を吐き深く腰を沈めた。


なんとなく遠くに行きたくなって電車に飛び乗り、お腹が空いたからご飯を食べる。

そんな行き当たりばったりの行動をしている自分が不思議だ。


運ばれて来たナポリタンの味が見た目の色の鮮やかさとは裏腹に優しいもので、また不意に目が潤んでしまった。