初めてのズル休み



背中に回されていた腕の力が少し緩んで、私の顔を覗き込んで来た。


「だからさ。俺は、ゆかりが思うほど、大人じゃない。カッコ悪くて、もがきまくってる男だ」


私の心の動きをのぞきたいのか、暁さんの目が注意深く私を見つめる。


「それでも、自分の弱さを認めたうえで、おまえといるためにどんなカッコ悪いことでもしようと思う。一人なら、苦しくて耐えられなくなったら逃げ出すかもしれない。でも、ゆかりがいるから踏ん張れる。俺は、そう思ってるよ」

「暁さん……」


私が私なりの社会で働いているように、暁さんだって暁さんの世界で戦っている。
私の見えないところで苦しんでもがいている。

そんな当たり前のことに気付いた。

全部、私と同じだ。

そうやって、大人は自分を奮い立たせて大人でいる。
そうやって、踏ん張っている。


「どんな仕事だって、這いずり回ってでも食らいついてくよ。ゆかりと生きていくために」

「うん……」


男の人にとって、暁さんにとって仕事って人生の一部みたいなもので。
きっと暁さんなりの男としてや小説家としてのプライドもある。

でも――。そのプライドを私のためなら捨ててもいいと言ってくれている。

それ以上の言葉があるだろうか。


「――こんな、不甲斐ない男でも、いいだろうか」


あふれ出る涙のせいで、上手く言葉にならない。
だから、何度も何度も頷いてみせた。


「ゆかり……。ありがと」


暁さんの胸の鼓動が激しく波打っている。
私も同じように心が震える。


私の、大切な人から大切な言葉をもらったから。