「……昨晩のゆかり、凄かったな」

「え……? や、やめてくださいっ」


また、そんな風に大人の目で意地悪を言う。
私は、暁さんの前ではただの小娘にでもなってしまったような気になる。


「あんなに乱れたゆかりを見たのは初めてだ」

「それは、暁さんが――」

「俺が、何?」


意地悪だ。本当に。
いっつも余裕たっぷり。


「そうやって、いつも大人の余裕で私を追い詰めて」


自分の歳など忘れてしまって、拗ねてみたりして。
そんな風になれるのが、またいつもとは違う自分になれて心地いいのかもしれない。


「俺が、大人? そんなことないよ。いつも余裕なんてこれっぽっちもないさ」


私を胸に抱きながら暁さんが囁く。


「私には、暁さんはとても大人に見えて。三十三にもなって自分が酷く子供に思えます」


温かい暁さんの胸に頬を寄せた。


「今回のことだって、大人の余裕なんてものがあったらゆかりにあんな態度はとらなかったさ……」

「え?」


暁さんの腕がぎゅっと私の身体を閉じ込める。


「ゆかりが突然家に来た日、決まりかけてた連載の話、立ち消えになってさ……」

「そんなことが……?」


何も知らずにいた。
何も知らずに、自分のことしか考えていなかった。


「だから、心ん中、焦りとか悔しさとか苛立ちとか、そんなので一杯で、余裕なんて少しも持てなくて。自分が情けなくてさ。だから、ゆかりの不安に向き合うことが出来なかった。甘えさせてやれなかった」


ごめん――。暁さんが息を吐くように言った。