「暁さん、あの――」


この日は暁さんの家に行くつもりだったから、特別部屋は片づけていない。
見せられないほど散らかってはいないはずだけど……。


そんなことを思いながら鍵を開け部屋へと入ると、すぐさま後ろから暁さんに抱きすくめられた。


「ゆかり、ごめん」


きつくきつく私の鎖骨あたりで暁さんの腕が交差する。


そんな声、聞いたことないかもしれない。


それほどまでに、いつもの飄々とした声とは違っていた。


「おまえが、頑張り過ぎて上手く甘えられないんだってこと、俺は知っていたのに。そんなおまえが、ああして俺に甘えてくれたってことが、どんな意味を持つのか誰よりも俺が分かっていたはずなのに……。あんな態度を取って、悪かった」


暁さんの顔が私の首筋あたりに埋められていて、その表情を見ることは出来ない。
でも、苦しいほどに腕を回されれば、その気持ちは言葉以上に伝わって来る。


「おまえを、傷付けたよな……?」


すぐ傍で聞こえる、掠れた声。
胸がぎゅうぎゅうと締め付けられる。


「私、少しは強くなれたんだって思っていたけど、全然だった。まだまだ、すぐにフラフラしちゃって……」


こうして抱き締めてもらえるだけで、重たく閉ざした心も唇も軽くなって素直な気持ちを吐き出せる。