あれから暁さんから連絡が来ることもないし、私もなんとなく連絡出来ずにいる。
これまでだって、必ず毎日連絡を取り合っていたというわけでもない。
それでも不安に思ったりしなかったのは、二人が繋がってるっていう確かな気持ちがあったからなのかもしれない。

結局、誰かと一緒にいるということは、外見的な目に見えるものじゃなく、心の在り方でその時の気持ちも全然違うということだ。


仕事帰りに街を見渡してみれば、お店ではどこもバレンタインコーナーがすぐに目に付く。


バレンタインか――。


ここ数年、無縁のイベントだ。


可愛らしいものに、大人っぽいもの、スイートな雰囲気にビターな雰囲気。
いろんな種類のチョコレートが並んでいた。

今までは素通りしていたのに、やっぱり足が止まる。


私は一体どうしたいんだろう――。


何気なく一つ手に取って、考え込んだ。
心にいろんなものが覆いかぶさって、分からなくする。



少し溜まってしまった仕事を片付けようと、いつもより早く出勤した。

でも、オフィスには既に先客がいた。


「あれ、瀬崎君早いね」


一人パソコンに向き合う瀬崎君の姿に驚く。


「おはようございます。試合も近いですし、仕事あまり出来なくなるので今日のうちにと」

「真面目だなぁ」

「田中さんだって」

「確かに」


そう言って、笑う。


「あのさ、この前の飲み会での話なんだけど……」


ひとけのないオフィスでパソコンに向かう瀬崎君の背中を見ていると、不意に言葉が出てしまった。

誰でもいいから、教えてもらいたかったのかもしれない。