「まあいい。寒いし、早く入れ」
そう言うと、家の広さに比べても無駄に広い玄関に私を一人ポツンと残して行ってしまった。
ここまで来るまでの心逸る気持ちは消え失せて、俯き加減で居間へと入って行く。
暁さんの家は、平屋だと言っても、部屋数はほとんどない。
ダイニングと居間、そして寝室だけだ。
小説を書いているのはダイニングテーブル。
一人で暮らしているから書斎のようなものは特別必要なわけではないのだと言っていた。
「ほら、ココア。これ飲んだらもう帰れよ。駅までは送ってってやるから」
「……え?」
二人掛けのソファに腰掛けると、ローテブルにマグカップを置かれた。
温かそうな湯気が漂っているけれど、暁さんから出た言葉はそれとは似つかわしくない冷たいものだった。
もう既に暁さんはダイニングに戻って、ノートパソコンに向かい合っている。
確かに、平日に突然来たのは悪かったかもしれない。
でも、仮にも恋人だ。
もう少し、優しくしてくれてもいいじゃない。
昨日までは、あんなに甘い雰囲気だったのに――。
私は何をしにここまで来たのだろう。
急激に惨めな気持ちに覆われて、マグカップを握りしめたままうつむいてしまう。
「……ゆかり」
「うん」
暁さんの顔は見られない。ただ相づちだけを売った。
「本当に、何かあったのか……?」
溜息混じりに仕方なく吐かれた言葉のような気がして、惨めさと悔しさで意地を張ってしまった。
「何かなきゃ来ちゃいけないの? 恋人だったらこういうことだってあるでしょう? そんなに迷惑だったなら、言われた通りもう帰ります」
ただ、優しく抱きしめてほしいだけだった。
何か言葉が欲しかったわけじゃない。
触れてくれるだけでよかった。
そんなことも求めちゃいけないの――?



