「いつも真面目できっちりしてるおまえが、ベッドの中では別人のように甘えてくる姿が、可愛くて仕方がないんだ。男なんて、そんなもんさ」


そう囁くと彼がキスを大量に降らせ始めた。そのキスにまた溺れてしまう。




暁さんの家は、馬堀海岸から歩いてすぐのところにある古びた一軒家。
私は、金曜日仕事を終えるとそのままここへと直行する。

職場のある品川からこの馬堀海岸まで京急で一時間弱、電車に揺られてやって来る。そして、日曜の朝に自分の家に帰る。

そんな生活を送っていた。


月曜日から金曜日までの完全武装した私が、唯一鎧を脱げる場所。

その場所と暁さんと過ごす時間のおかげで、私はまた次の一週間を頑張ることが出来た。



月曜日――。
また一週間が始まる。


「田中さん、この資料、チェックお願いします」

「分かった」


数か月前に異動になって、今はここ『人事部』で働いている。
要するに、社の中の管理系の部署だ。

人事とは言っても、社内の人事をつかさどるものではなく、給与関係の事務をする場所。
同期の奈美が主任に昇格して、さすがに同期をそのままおいてはおけなかったのだろう。
あれからすぐにここに異動して来た。

周りからは、”飛ばされた”なんて陰口叩かれているのも知っている。

それでも、こうして働けているのは、強くなったから。
いや、強く、というよりはしなやかになったのかな。

肩ひじ張らなくなった分だけ、自分の状況をそのままに受け入れられるようになった。