だんだんと暁さんの肌の温かさが心地よくなってきて再びまどろみ始めた頃、暁さんが目を覚ました。


「ん……おはよ」


すぐ頭上から聞こえて来る寝起きの掠れた声。
いつもの重低音ボイスがさらに色っぽくなるから困る。


「おはようございます」


もぞもぞと暁さんの胸から顔を上げた。


「俺、気付くといつもおまえを抱きくるめてるな……。無意識のうちにこうしてしまってるんだから、本能がゆかりの身体を求めてるんだな」

「ただの抱き枕くらいのつもりでしょう?」


なんとなく恥ずかしくなって、冗談交じりに返す。
でも、私の背中にあったはずの暁さんの手のひらが、意地悪く動き出す。


「わぁ……っ」

「このあたりとか、たまらなく可愛いだろ」


そう言って、私の身体のラインに沿って手のひらを這わせるから変な声を出してしまった。


「もう、やめてください……っ」

「本当に、おまえは、可愛いな」


まるでペットの犬でも抱きしめるかのようにぎゅうっとされる。

三十三歳の私に”可愛い”なんて言ってくれるのは、この人だけだ。

もう可愛らしさの欠片もなくなっていることは自分が一番よく分かっている。
分かっているのに、”可愛い”と言われれば、たとえそれが冗談だとしても嬉しいと思ってしまうから厄介だ。


この人とこんな関係になるまでは、誰の前でも、どこにいても、気を張り詰めていた。
情けない姿を見せないように強がってばかりで。

弱みも情けなさも無理矢理に隠していた。


でも、こうして心も身体もほぐされて甘えることを覚えてしまうと、本当に彼のペットにでもなったかのような気になってしまう。