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ちょうど一年前の今頃、この海岸に私は一人で来た。

朝、仕事に行くはずの電車とは反対側の電車に、突き動かされるように飛び乗って。

スーツ姿で、一人海を見ながらビールを飲む三十過ぎの女――。


『夜の海を見ながら一人酒を飲んでる女って、ちょっとシュール過ぎやしないか?』


――ふふふ。


砂浜を踏みしめながら思い出し笑いをする。
あの日出会った見ず知らずの男の言葉が蘇る。

そんなシュールな私に同情してか、勝手に座ってビールを飲んで。

名前も年齢も知らない人。
知っていることと言えば、この街にある昔ながらの喫茶店の常連さんで、売れない小説家をしているということだけ。

誰よりも仕事を優先して、誰よりも真面目に仕事をしていたあの頃。

私の元を去って行った恋人が同期の子と結婚した日だって、どんなに泣いても仕事をしたっていうのに。

仕事だけは私を裏切らないような気がしていた。


でも、一年前、昇任したのは私ではなく彼女だった。