「……自分の思い描いていた未来がこれだったのかな。そう思うとどうしようもなく虚しくなる」


恥ずかしくなるほどに泣いてしまう自分が、情けない。
でも、どこの誰かも分からない人にだからこそ曝け出せた。


「……そんなの、自分だけだと思ってるかもしれねーけど、大人なら多かれ少なかれそんな気持ちになることあるだろ?」


ずっと黙っていたその男が、静かにそう囁いた。
その声が思いのほか優しげで、もっともっと心の奥底の自分でも認めたくなかった思いまで吐き出したくなった。


「分かってるんだ。本当は、ただの妬みだって。ただ努力しただけじゃかなわない、私にはない能力を彼女が持っているって本当は分かってる。でも、認めたくなくて。私には彼女以上に頑張るしか能がなかっただけなんだって。それじゃあまりに惨めで、目を逸らしてた――」


そこでもう言葉を繋げられなくなった。


『田中さんは真面目で言われたことを処理する能力にはたけているけれど、新たな発想とか企画力とか、そういうところが足りないよな。だから雑務を任せるには便利だけれど、それだけの人材だよ』


そんなことを上司が陰で奈美に言っていたのを聞いた。

その時、悔しいけど紛れもない事実で動けなくなった。


「そんな風に十年も働いて来て、何にも成し遂げてなくて勝てなくて、挙句の果てにこんなところで一人でお酒なんか飲んで、本当にどうしようもない大人だ」


少しずつ冷たくなってくる夜風が胸を突き刺す。
昂ぶった感情を冷ましてくれるどころか、余計に胸を詰まらせる。

その時、大きな手のひらが私の頭の上に載った。