「……私、やっぱり人としてダメな人間に見えました?」


昼にこの男に説教されたことを思い出す。


「初対面の人にすらそう思えるのなら、私は本当にだめな人間なのかもしれない。自分が気付いていなかっただけで……」


思っていた以上に乾いた笑いになって、なんとなく言葉を噤む。


「……俺は別に、ダメな人間だなんて言った覚えはないけど?」

「でも、人間性が出るんだとかなんとか言ったじゃない……」


膝の上に置いたビールの水滴がスカートに沁みて行く。


「おい、この酒、相当生温いんだけど」


こんなまずい酒飲んだことね―わ、なんて文句を言いながらもぐいぐい飲んでいる。


「……まあ、俺は何でも口にしちまう人間で。思ったことを黙っていられないんだよ」

「じゃあ、やっぱりそう思ったんじゃない」


それには答えずに、男が問いかけて来た。


「あんた、なんでそんな格好で海なんかにいて酒飲んでんだ?」


そんな格好――。ああ、誰が見てもすぐ分かる仕事に行く格好だ。シャツにタイトスカートに黒いパンプス。海に遊びに来るような恰好じゃない。

そんなことを改めて思っていると、少しだけ柔らかくなった声が夜風の音共に聞こえた。


「別に、あんたも俺もお互いのことは何も知らないんだ。それに、ここを離れればおそらく一生会うこともない。だから、吐き出しちまえば?」


低いその声だけで大人の男だと思わせる。
でも今はその低い声さえ聞き心地が良いと感じた。