この男とのこんなやり取りの間にも、薄暗かった空がすっかり暗くなっていた。

もう海をはっきりと認識するのも難しくなったけれど、微かに聞こえる波の音と磯の香で海を感じられる。

初夏の夜の海は、優しい風と波の音を私にくれた。


空になった缶を横に置き、もう一本、今度は缶ビールを手にする。

一度ふわりと軽くなった身体は急速にアルコールを求める。

身体に沁み込むお酒は、私の心にも染み渡って行く。


「夜の海を見ながらひとり酒を飲んでる女って、ちょっとシュール過ぎやしないか?」


夜のおかげで、もうその男の表情もはっきりとは分からない。
だからなのか、初対面であることの緊張感とかぎこちなさが勝手に消え去って行く。


「確かに。でも、気持ちいいから……」


そう、気持ちいい。このまま、現実の自分のすべてを忘れさせてくれないかな……。


「女が一人でこんなところで酒なんか飲んでると、目に付くんだよ。俺が隣にいてやるから、思う存分飲むといい。その代り、俺も酒もらうぞ」


そう言って、勝手にビニール袋から缶を取り飲み始めた。


このままだと悲しいお酒になってしまいそうだった。
誰かが傍にいてくれるなら、気が紛れるかもしれない。

もしかしたら、この男はとんでもなく悪い人間かもしれない 。
なのに、こうして二人で飲むのも悪くない気がした。