三本目にしてやっと周り始めたアルコールのせいで、心が揺らいで心許なくなる。

その男を思いっきり無視して再び缶をぐいっと傾けた。
その缶が空になったから、もう一本ビニール袋から取り出す。


「まったく、しょうがないお嬢さんだな」


そう溜息をついたと思ったら、隣に座っていた。

ぎょっとして、もう一度その男を見る。


「なんですか? まだ、何か用?」


鋭く睨み返した。
でも、その男はそれに気に留めることもなく前を向いたままだ。

長めの髪が風になびいて、額が露わになる。
綺麗な額とそれに続く筋の通った鼻で、ついその横顔に見入ってしまった。

一体いくつくらいの人だろう。
ずっと年上の人なのか、意外とそうでもないのか、年齢不詳という感じだ。

風の向きが変ったと同時に長い前髪の一筋が顔にかかり、大人の男の色気を醸し出す。


ぼおっと目を向けたままでいると、突然その顔がこちらに向けられた。


「何、見てんだ」

「……!」


声にならない声を上げそうになって息を飲む。
見ず知らずの男の横顔を凝視するなんて、どうかしてる。


「突然、隣に座ったりするから」

「じゃあ、ことわりを入れようか。ここ、いい?」


覗き込むように顔を近付けられて、思わず身体を引いた。


「どうして」

「なんとなく」


それ以上なんと答えたらよいのかも分からず、そして更にアルコール度数の高くなった身体のせいでどうでもいいような気がしてきた。

私は無言のまま、また目の前の黒い海を見た。