封筒の中身を再度確認する。
中身にはストロベリーブロンドの髪が入っていた。
私の髪だ。
『うっ…』
ずっと、ずっと
独りぼっちだったの…。
封印が解けた今、髪色は少しずつ元に戻っていく。
周りの視線を集めている。
「あの子の髪の毛…」
「外国人?」
いけない、こんな所にいたら…。
『はぁっはぁっ』
この髪の色は、あまり周りに見せてはいけないんだ。
物陰に入って携帯のカメラを使い自分の顔を確認した。
『っ!!』
あの日と同じだ。
夕紀くんに助けられた日と同じ。
目が金色
もしかして、魔法の副作用?
「おっ、美人!!」
「外国人か…?」
「見ろよ目の色金色だぜ!」
いつの間にか変な集団に囲まれてしまった。
どうやらザヘルではないらしい。
『来ないで』
「俺達と遊ぼうぜ」
『来ないでよっ!』
ーキンッ
お腹が一瞬熱くなる。
次の瞬間、彼らはなにかに弾かれて転ぶ。
「お、おいやべえぞ」
『だから来ないでって言ったのに…』
今の私は不安定だから。
急いでその場から離れて走った。
近くの自販機で水を買って、また隠れ、そこで水をぶちまける。
『“宙の家へ続く道となれ”』
水は鏡
そこへ飛び込んだ。
『…あれ』
行けない
まさか、鏡を家に置いていないのか?
確かに鏡は扉だから置かなさそうだ。
弱ったな
宙の家は知っているが少し遠い。
そんなに姿を晒すわけにはいけないし…。
『“夕紀くん…”』
ふと呟いただけなのだが地面は揺らいだ。
まじか
ードンッ
『いっつたあ』
酷い音で地面に転がる。
何とも言えない痛みが腰に響く。
「え」
「美影?」
聴こえた声に顔を上げる。
『宙っ』
どうやら私は夕紀くんの家のテレビから出てきたらしい。
「髪が…」
『全部思い出したの』
その言葉で空気が凍る。
『私はリィズ家の末裔で遥か昔、天使と結ばれた人間の一族、違う?
昔、天使達はよく下界に来ていたけど人間と契るのは禁じられてた。しかも、その天使は天使の頂点に立つ大天使だった。
大天使…リィズは神から愛されていたけどそれが届くことはなく、事件は起こった。
リィズは自分の命と引き換えに人間の許しを乞い、神様は愛する彼女を殺すことになる。』
「……思い出したんだね。」
そう
全部思い出したの。
『大罪を犯したのはリィズ様だけではなく能力を持った人間が増えた。このままでは神と人間の秩序が乱れると先々代の大天使が訴え、やむなく天使の子孫を殺すことになってしまった。
神様はリィズ家だけは自分で行くと言い、祖母の家へ向かったの。
彼女は当時の一族最後の人間で、殺せば秩序は完璧に守られる。
なのに、神様はそれが出来なかった。祖母がリィズに似ていたから…。
そして神様は自ら禁忌を犯し、娘を授かった。』
それがお母さん
そして孫が私。
つまり
『私は神様の血を継いでいる。』
宙は少し寂しそうに笑った。
「本当は、俺達とは口なんか聞けないくらい、君は高貴なんだ。」
『でも私の存在は、貴方達の世界でかなり影響があったんだよね。』
神様の孫だから、悪魔に狙われたり。
天使達に関しては私に対し様々な意見が生まれただろう。
神様は絶対、それが揺らぎ始めている。
「俺達は神様に命じられたんだ。
あんたを守るようにって…でも、それを決めたのは俺達だから。
つい最近まで迷ってたんだ、ずっとあんたのことを見てたけど、守る価値を試してた。
美影は、俺が認めた女だよ。」
夕紀くんはさらっと恥ずかしいことを言ってくれる。
「俺は…美影に、大きな借りがあるから。」
借り…?
「いつか必ず言う。」
宙は私の目をしっかり見据えた。
『うん』
それにしてもこの髪色は厄介だ。
なにしろ、この髪色は神様の証らしい。
いや、私ハーフ…?クウォーター?なんだけど。
「目の色まで変わるんだな。」
「とりあえず、今は染めてることにしたいけど悪魔には通用しないし…。
最近は血の香りが濃くなってる。」
『血の香り…?』
「あの御方はこの世で最も高貴な血を持っている、その血が君には流れているんだ。
もしかすると彼の血がだんだんと元のリィズ家の血を飲み込んでいるのかも。」
言ってしまえば血が濃くなっているってことか…。
『もし真実を知らなくても、何れは力が暴走して知る時が来たんだ。』
「美影の家にある鏡、出来るだけ何かで隠して、それから夜になれば窓は鏡になるからカーテンは閉めろよ。」
心配…してくれてるのかな。
『うん』
「じゃあ俺、送ってくよ。」
『え、いいよ!私テレビから帰るし…』
「いや、流石に女の子をテレビに突っ込ませるのは気が引けるというか…。」
宙がそういうと笑いが起きる。
確かに、絵面が酷い。
『ありがとう』
折角夕紀くんと話してたのに…。
私はふとポケットに突っ込んだ封筒を出した。
中身は髪の毛
そして一枚の手紙
『“昔、貴女と行ったあの場所へ。”』
…まさか
「美影!」
お母さん待ってて、今行くから。
今では母だけが私の大切な家族。
何を考えているのかはわからない。
けどもうバラバラなのは嫌だ。
ーガチャッ
夕紀くんの部屋を出てマンションから下を見る。
自販機はなさそうだ。
いや、確かここの下にある筈。
迷わず手すりに足をかけて立った。
「ちょ、待っ!!」
『待たない』
大きく手すりを蹴って空に跳ね上がる。
一瞬、一瞬だけど
自分で空を飛べたような気がした。

