ーガチャ

「『お邪魔します。』」

「うわー相変わらずなんもねー。」

「…」

夕紀くんは座れというように地面にクッションを置いた。

意外と床でごろごろするタイプな人なのか。

今日はいっぱい意外な面が見れる。

「じゃあ台所借りるわー」

といってテキパキと動く架、なんだか私も料理がしたくなってきた。

邪魔だからやらないけど。

『夕紀くんも漫画読むの?』

棚に並べられた少年誌に目を向けた。

「まぁ」

なんだろう、何話せばいいかな。

夕紀くんはただぼーっとして一昨日あげたネックレスを指先で遊ばせている。

つけてくれてたんだ。

「らしくない。」

『え?』

「無理に合わせようとするのは、あんたらしくない。」

思わず数秒顔を見つめていた。

どこまでわかるんだろう。

なんでわかるんだろう。

『そっか、そうだよね。』

私がそう言うと、彼は笑った。

ーミャア

『どうしたの?』

エルは私の隣に座って夕紀くんを見上げた。

何をしているんだろう。

「美影ちょっと手伝ってー。」

『あ、はい!』

ちらりと様子を見て台所へ急いだ。

「ちょっとスープの材料切ってくれねぇ?」

『うん』

架が指さした方のお弁当袋の中を見ると十個ほどプリンが入っていた。

見た感じ市販ではなく作り物、しかもかなり美味しそうだ。

いや…この量はなんだ…。

架の女子力に感激していると架は隣にしゃがんだ。

「カラメル作るの苦手でさ…」

どうやらサプライズをしたいみたいだが彼らの嗅覚は半端ない。

カラメルなんか作った暁には即バレ必須だ。

人間でもそんな甘い匂いがすればすぐ気付くのに…

架って意外と天然なのかもしれない。

『うん、カラメルって難しいよね…。』

ちょっと熱しすぎるだけでと苦くなってしまう。

『あっ、ほらそろそろ火を止めないと!』

「あっ!」

…少し抜けてるところが日和の姉心を刺激しそう、ほんとお似合いのふたりだ。

こんなに楽しい料理の時間は初めて。

それにしてもよかった。

母の若い頃の服を借りていなきゃ三日連続同じ服を着ていることになる。

「よっ」

架が掛け声とともにフライパンを綺麗に揺らす。

『うわぁ!』

とろっとろの卵をご飯にかけるとあっという間に完成。

『プロレベルだよ…』

「オムライスは自信あるんだー」

これは夕紀くんがハマるのもわかる気がする。

火元が空いたので私もグラニュー糖を手に取った。

『よしっ』

架を横目で確認するとトマトソースをかけている。

うん…自家用ソースとか出てきそうな勢いだったから少し安心した。

夕紀くんはテレビを見ながらエルと遊んでいる。

私の家にテレビがないからエルはとても興味津々だ。

いい感じに色付いて来たところで火を止めた。

それを架特製プリンの上にかけてあげる。

「うわぁ!うまっそ」

「…カラメル?」

「美影がカラメル作ってくれたんだー」

更に架はホイップクリームにさくらんぼを出してきて10個中3個に飾る。

おわかりだろうか

彼、すっかりサプライズのことを忘れているのだ。

「うまい…」

席につき、目をキラキラと輝かせて夕紀くんはあっという間に四つ完食した。

「残りはオムライス食べてからなー
どうぞ、ふわふわ架特製オムライスです!」

ーコトッ

『おいしい…』

口に入れた瞬間卵がふわっぷるんと踊って中の濃厚なライスがもう最高。

「なんか、ふたりって似てるよなー。」

キョトンとして架の顔を見るも微笑ましそうに指で口元を指した。

「ソースついてる」

『あっ』

恥ずかしい…

『ねぇ、前バイト探してるって言ってたよね。料理関係とかの仕事やってみたらどうかな?』

「おぉ!そういう手もあるのか…確かにいいかも!」

架ならすごい人望も集められそうだしいいよ絶対。

そう言って笑った。