「残念、お前を逃がすわけにはいかないからな。」
這いながら扉へ伸ばした手を踏まれる。
『う"ぅ』
涙は出なかった。
悲しい、苦しい、なにより腹立たしい。
「ふははは!!!俺にそんな目を向ける奴はひさしぶりだ!!もっと俺を楽しませろ。」
『クズ野郎が…』
数秒睨み合うとなにやら面白そうに笑った。
「さっき痛めつけたところ、もう大分治ったみたいだな。あぁ、あいつらの驚く顔が見たい。」
『な、なにを…』
地面からツルが伸びてきて私を壁へと固定した。
なに、これ?
「今日はお前を連れていくのはやめにした。
俺の名はそうだな…ここの国の名では玲夜と名乗ることにしよう。」
玲夜という美しい仮面を被った悪魔は指を鳴らすと床にぽっかりと穴が開く。
そしてそこから様々な異形の生物が飛び出してきた。
『こ、これはっ』
「ふぅん、身に覚えがあるようだな。」
覚えているに決まっている。
あんなに怖い思いをしたのだから。
重たいコンビニ袋、
冷たい夜、
眩いバイクのライト、
土の感触…
すべて鮮明に覚えている。
『ザヘルッッ』
悪魔にもなれなかった低級の魔物。
低級といっても人間より遥かに強い。
「ケッケッケッケッ」
「キッキッキッ」
「お前達、あの女を好きにしろ。」
「アノオンナ、イイニオイスル。」
一気に向けられる視線に全身が強ばった。
赤
赤
赤
真っ赤な瞳
宙の目はあんなに綺麗なのにこんなにも違う。
途端に全身から激痛が走って目を閉じた。