私はアリシア


彼に恋をしたただの女の子


手足の感覚が明確になって瞳を開いた。


それはあまりにも悲惨な現場であった。


見知った人達が立ち上がれないほど傷付きこちらを見ている。


「美影!!!」


「美影っ」


日和に、架……?


どうしてこんなところに…


自分の足元を見ると大好きな彼が脇から血を流して瞳を閉じていた。


『そ…ら?』


嘘、これ、私がやったの……?


呼吸も浅い


頭がサッと冷えていく感覚がした。


強くて、無口なアルベール


優しくて、よく泣いているように笑う宙


『や、だぁ』


久しぶりに会えたのに


助けに来てくれたのに


『死んだら意味ないじゃない!!!』


貴方がいなきゃ…ひとりでもかけちゃ駄目なのに……


私は近くにあった瓦礫で腕を少し切り血を口に含み口付けた。


彼の喉が飲み込む音と同時に少し動く。


そして、瓦礫に思いっきり肩を押されて首元に痛みが走った。


『いっ』


その痛みはだんだん甘美になって飲み込まれていく。


よかった…これで大丈夫。


「っごめん…会いたかった。」


痛いくらいに抱き締められる。私も強く抱き返して幸せを噛み締めた。


ードカンッ


ふと稲妻が走って爆発するような音が聞こえた。


破片が飛び散って頬を掠める。


宙は回復したといえど傷は癒えていない。


こんな時に現れるなんて……ラミア


「なにぼーっとしてんだよてめぇら」


珍しく感情を思いっきり前面に出して怒っている。


「魔王はまだ生きてんだぞ…!!」


「……貴方、魔王の手下じゃなかったの?」


ミリーナさんが傷を抑えて立ち上がった。


「俺はずっと待ってた、あいつの近くで、確実に奴を仕留める時を。」


だからラミアはわざと悪役に徹していたの……?


瓦礫を魔法で消して草原を生み出し綺麗な場所に宙を寝かせた。


手に光の玉を浮かべて上へ放てば光の粒が天から降り注ぎ皆の傷を癒す。


「うわ…」


「綺麗で暖かい」


みるみる消えていく傷に安心してラミアの隣に並んだ。


『よかった』


「は?」


『信じてたんだもの…貴方が悪い人じゃないってね。』


驚いたような変な顔をした後、ラミアは少し笑顔を浮かべた。


「ほっとけないやつばっかで困るな。
しかし感傷に浸ってる暇はないよ。」


剣を構えている先


それは夕紀だった。


『……なんで夕紀に?』


「夕紀が一番あいつの本体の容姿に近いから乗り移りやすいんだろうよ。今のあいつは夕紀じゃない。」


今にも飛び出そうとするラミアを魔力で制する。きっと動きたくても動けないはずだ。


「っなんの真似だ!?」


『これ以上貴方を殺させたくない。』


「!」


『夕紀を殺したら…貴方は絶対後悔する。』


「やめろ!!俺がこの時のためにどれだけ…」


『恨むなら私を恨んでよ。』


耳元でそっと呟いてゆっくりと夕紀へ近付いた。


「きっさま……く、るな」


魔王と夕紀が混在していてぐちゃぐちゃだ。


「頼む…ありったけの光を俺にぶつけろ」


『そんなことしたら、夕紀が死んじゃう。』


天界の光はたとえ昇悪魔といえど毒になる。


「大丈夫……美影の光なら、俺は…」


苦しそうに叫んでいる。


助けてと、瞳が訴えていた。


『……光よ』


私は光を凝縮した……言わばブラックホールのようなものを作り出し夕紀にあてがう。


『信じてる』


「くっあ"あぁあああ!!!


せ、リーヌ」


セリーヌ


そう聞こえた後はわからない。


光に包まれて周りが何も見えなくなった。


セリーヌという人はもしかしたら、宙のお母さんなのかな…?


倒れてくる大きな体を受け止める。


傷だらけの体


そっと魔法で傷を癒して魔界の空を見上げた。


『終わったんだ…』


溢れてくる力を解き放つとみるみる至る所から木々が生え古き城には新しい生命が芽生えてきていた。


何十年、何百年、何千年……


長く生き過ぎた魔王の最期の日だった。