「かわん、ないね」
『?何か言った?』
「ううん、送ってくよ。」
『い、いいっ。』
慌ててカバンを肩に掛けようとすると鋭い痛みがする。
これ、絶対に痣になってる…。
「その体で?また誰かに絡まれたらどうするの?美影じゃ抵抗出来ないよ。」
『別に、わざわざこんなやつのとこ来ないよ』
「そろそろ自覚しなよ。
美影は綺麗だ。」
本当に掴めない男の子だ。
宙の方がとても綺麗だし、
私は穢れてる。
「行くよ」
有無を言わさないうちに姫抱きにされ窓枠に足をかけていた。
『意味わかんない…』
「何か言った?」
私はそれを無視して顔を背ける。
昨日はとても怖かった赤い目が、今ではとても悲しく映る。
ーバサッ
“鳥になりたいな”
何時か口にした淡い夢が実現したように感じた。
ぐんぐんと風をきって空を舞う。
「怖い?」
『ちょっと、だけど…少しワクワクする。』
「クスッ…それは楽しいって言うんだ。」
たの、しい。
私達は共に夜空を舞う、美しく輝く月がここまで間近に感じられるとは…。
「美影だね」
『ん?』
「月のこと」
確か昼もそんなことを言っていたな。
私が月ならきっと…新月がお似合いだね。
皮肉っぽく心の中でつぶやく。
「じゃあ降りるね。しっかり掴まってて。」
彼の首に腕をまわす。
屈強な体。
それは確かに暖かい。
私が気を失った時に感じた温もりはもう明確だった。
『ありがとう』