これから新しい人を好きになって欲しい。

宙のことだから、きっといい人に出会える。

だから、別れのキスはしない…

あぁ…

でも、宙に他の女の人の手が触れると考えたら胸が張り裂けそう。

ーグイッ

え…?

彼は動けないはずなのに私の手を引いて抱きしめるように優しく、でも少し強引にキスをした。

全身が熱くなる

堪えていた涙が頬を流れていく。

これが私の初めてのキスだった。

「待ってて」

『ん』

「絶対に取り返すから」

『うん』

その瞳は怒りと悲しみと意志を宿していて、無性に心が惹かれた。

「で、終わったか?」

酷くつまらなそうな声が冷たい空間に引き戻す。

「おまえ、どうやって俺の魔法を解いた?
まぁいい……」

そう言うと私に手を伸ばす彼。

突如として、全身を引き裂かれるような痛みに襲われた。

心臓を鷲掴みにされたみたい。

それでも心は何故か冷静だった。

『うっあああ"!!!!!』

「やめろ!!!!」

宙が動こうとするがどこからとなくラミアが現れてそれを制した。

「お前こそ黙ってろ」

体が熱い

痛い

苦しい

気を失う寸前だった

急に体が軽くなったのは…

私はそのまま地面に跪く。

ロゼオを見てみると、その隣には初めて見る余裕のなさそうな表情をしたエリーゼ

「小癪な娘だ…邪魔をするな」

「おまえこそ、じゃまだよ」

その小さな身体からは想像もできない力に、魔王も少し、ほんの少し驚いているようだった。

でも、エリーゼ…無理なんだ

ーガンッ

「うぐぅ」

エリーゼはその華奢な身を煌びやかに飾られた壁に打ち付ける。

「隊長!」

シュファルツさんが急いで彼女の元へ駆ける。

いくら彼女の力があっても、

こいつには勝てない。

『ロゼオ』

大好きな人の辛そうな顔を、

もう見ていたくない。

『早くして』

「たいした女だ……流石、俺の器」

そう言って再度手を向けられると、また先程の激痛が襲う。

精神と肉体を強制的に剥がされているみたい。

いや、実際にそうなのか。

「美影っ!!」

『宙……今まで言えなかったけど、

好き…でした

日和たちに…っ…怒られちゃうかな。』

今にも途切れそうな意識の中

届くはずもない手を必死で伸ばした。

そして彼も手を伸ばす。

宙が口を開いて何かを言おうとした瞬間、

私は意識を手放した。