彼女が何を言っているのかわからなかった。

だって、マーシュはマーシュだから。

「まぁ、正確には、中に入っているやつのことだけど。」

中に入っている……?

「ねぇ…魔王なんだろ?
さっさと僕に本性見せてよ!!」

エリーゼは興奮したように大鎌をマーシュの首元ぎりぎりにまで持っていった。

『な、ちょっと落ち着いてよ…どうしてマーシュが魔王なの?』

「そうですよ…俺はマーシュですっ!
どうしてそんなことを言われなきゃいけないんですか?」

そんな彼の様子を見て、エリーゼは面倒臭そうに言った。

「マーシュは自分のことを“俺”って呼ばないし、あいつは毎朝ちゃんと花に水をやってたんだ。
それを欠かしたことなんてないんだよ。
それなのに、あの天界での戦いの後
お前が花に水をやっているところなんて、
一度も見た事なかったなぁ。」

ーガリッ

エリーゼは苛立っているのか奥歯を噛み締めた音がした。

そこまで、マーシュのことを見ていたの?

エリーゼ…貴女はこの世のもの全部壊した言っていたけど、本当は大切なものがあったんだ。

不器用なだけだったんだね。

「マーシュを返しやがれこのくそ爺がっ」

「くくっ…あはは!!」

『……マーシュ』

シュファルツさんが私の手を引いて後ろに隠した。

それを見て、マーシュ…いや、奴は片方の口の端を上げる。

「こんなに早くバレるなんて、予想外だったな。」

声も、見た目もマーシュなのに、全然違う別人だった。

でも、ふと思ってしまったんだ。

まだ宙は無事だって。

まだ彼は乗っ取られていないって…

あぁもう

最低だ、守られる価値なんて私にはない。

「そう、俺はロゼオ……全世界の宿敵。
ご存知の通りあの戦闘中、この体を乗っ取ったんだ。前の体はもう“だめになった”からな…断然住みやすい。」

そう言って笑う奴だが、周りはどんどん険悪な雰囲気に呑まれていく。

周りにエリーゼとシュファルツさんしかいないから、魔王の強さは知らないが、今戦闘になれば明らかにまずい。

そんな時、奴が指を鳴らすと共に、地面にぽっかり穴が空いた。

その穴は私達を吸い込む。

「くっ、アリシア様!」

『っ…なにこれ』

魔法で飛ぼうとしても逆らうことが出来なくて、伸ばしてくれるシュファルツの手を掴むことも出来なかった。

「アリシア!!」

『エル!?』

なんでここにエルが…

そんなことを考える暇もなくて、
そのまま穴に吸い込まれた。