頬に冷たいものが触れる。

触れたものは……手

手、だけだった。

『ひっ』

「あははっ、かーわいっっ。
私は全身自由に切り離せるのっ。」

EGはよくみると体中に縫い目のようなものがある。

彼女は一体どんな存在なのだろう。

「ねぇ、君も肉体なんて捨てて至高の存在になろうよっっ、だからその体私にちょうだい?」

エリーゼと会った時のような、いやそれ以上の違和感。

心あるものに必要な根本的ななにかが欠如してしまっているとしか考えられない。

「どこを見ているの?」

EGの手を除け私の肩を引き寄せてエルは機嫌が悪そうに眉間に皺を寄せている。

「あらあら怒らせちゃった?でも君もよそ見は禁物だよ?」

「忠告ありがとう」

エルはありえない反応の速さで振り返って奇襲を仕掛けるロンドを蹴り飛ばす。

私はロンドの気配すら感じなかった……

もし一人で応戦していたら、とっくに相手の手中に収まっていただろう。

「“闇の輪舞曲(ロンド)”」

ロンドは手を左右に広げて目を血色に染めた。

そしてそこから私とエルを取り囲むようにして蝋人形のようなものが踊りだす。

正直トラウマレベルの光景だ。

私の顔が強ばっているのかEGはじっと私を見て笑っている。

『エル…』

「うん、フェネロペ達が手を出してこない……できないんだ。」

つまりロンドの蝋人形達が作った円の内側にはなにかはわからないがよくないことあるはず。

聴いていて頭痛のする曲に合わせて蝋人形達は踊る。

……蝋人形、心做しか少し大きくなっているような気がする。

それに曲の頭痛に加えて全身が気怠くなってきた。

『魔力を吸い取られてる…?』

「ピーンポーン!大正解!」

EGのその言葉を合図に蝋人形達は口を開けて笑い出す。

こんなのこの世界に免疫がなかったら卒倒していることだろう。

弱い所を見せたくないのに、どうしても肩が震えてしまう。

「アリシア…大丈夫、僕がついてる。」

そう言っているエルは私より魔力の吸収される速度が早いのか少し汗を浮かべていた。

力が強いほど吸収される魔力の量が多くはやいのか。

蝋人形達は踊るのをやめて私達に近付いてくる。

エルの力を吸収した蝋人形達は強いがエルの方も負けていない。

だが相手が多すぎるせいで私を庇うのに苦労していた。

『エル、私を庇わないで!』

「いくら主人の頼みでもきけないな。」

何度倒しても起き上がる人形達、ダメージなんて全く受けていない。

やはり、核を倒さなくては意味が無いのか……?

ロンドを見るが彼はこの魔法を外側から操っている。

この魔法を破る、つまり人形達を倒さなければ彼に近づけない、彼を倒さなければ人形達は立ち上がる。

完全に詰んでいる。

こんな技敗れっこない。

私たち以外の誰か、それも彼のテリトリー外から更に巨大な範囲で魔法を上書きしない限りここから脱出できない。

『くっ』

ロンドに近付こうとするが見えない高熱のバリアのようなものに阻まれて火傷を負った。

「!!!」

途端、全身が凍りつくような感覚がした。

悪魔達の視線が、一気に私へと集中したのだ。

ロンド達はもちろんその周囲で闘っていた悪魔や天使までもが私を見る。

まさか、血の香りに反応して……?

「最っ高だよ!!!芳しい香りが全身を駆け巡るこの感覚……っ」

EGは発狂して自分の体を抱きしめている。

あまりに異常な光景に、言葉を失った。