その日の夜、私はまたあの小川の近くへ訪れていた。
神界の中でも一際澄んで見えるその場所は、やはり彼女が生み出しているからだろう。
「貴女…本当にまた来てくれたんですね。」
『はい、約束ですから。』
この前、不治の病だと言っていて私の血を分けた女性だ。
「まだ名前を言っていなかったですね。
私はシーナ、シーナって呼んでください。」
『シーナさん……』
「あんなに血を嫌がっていたのに、身体は最近好調になりました。医者も驚いていたほどです。」
確かに、前は咳をよくしていて血すら吐いていた。
だが今は度々咳をするものの前とは違ってそこまで辛そうではない。
『これを…』
私はここに向かう前に作っておいた血を混ぜた神水の瓶を彼女に渡した。
彼女は蓋を開けると少し顔を顰めたが前程の抵抗はないのだろう、暫くすると自分でゆっくり飲み始める。
ーコクッコクッ
小さな瓶だが彼女には多いのか少し苦戦しているようだ。
飲み終わると息をついて瓶を返してくれた。
「ありがとうございます……でもこんなの、誰かに知られたらアメリア様が悪い様に言われてしまいそうで……。」
『いいんですシーナ、私の自己満足だから…。』
彼女はふと悲しそうに目を伏せた。
それが何を意味するのかはわからない。
ただ私は、居場所が欲しかった。
「アメリア様、私にはなにもありませんがひとつ歌を歌いましょう。貴女様の未来を願って…。」
そして彼女は口ずさむ
裸足で若草をゆっくりと撫でてそれはそれは美しかった。
自然と涙が出てきて彼女の歌声に聴き入った。
今まで聴いたどんな歌手の声よりも美しく透明で、泡のように消えてしまいそうな儚げな美人が月に願う。
極上の一夜だった。

