私は泣き止んでからエルにお礼を言って翠の神殿に向かった。
エリックと宙、そしてフレンチさんが帰りを待ってくれている。
休憩時間が過ぎても戻らなかったことを詫びて、皆にエルを紹介する。
『エル、出てきていいよ。』
彼は三人の前に姿を現した。
そしてその瞬間、なんとも言えぬ緊張感がこの一室に張り詰めるのがわかった。
「あ、貴方様は!!!」
フレンチさんが誰よりも早くその場に跪く。
「“クリーチャー”様っっ!」
『クリーチャー……?』
クリーチャーは創造物という意味だ。
それは名前ではないだろう。
クリーチャーと呼ばれたエルはなんの顔色も変えずに面倒くさそうに冷ややかな目を向けていた。
彼はいつもそうだ。
いつもその瞳で世界を見ている。
つまらなそうな
そう
それは私の祖父に似ていた。
ヴァレール神と呼ばれる唯一絶対の神に。
「僕はこの神界でクリーチャー、神の創造物という意味を込めて呼ばれているんだ。」
『神の創造物……』
それは私達も同じことではないのか…?
そしてこの皆の慌てようは、エルは本当に強いのかもしれない。
「顔を上げなよ、それに僕はお前とよく会っていたしね。」
エルは宙の目の前に立った。
目を丸くする彼にふっと馬鹿にするように笑う。
「美影…さっきエルって言った……?」
宙の言葉に頷くと本当に気付いていなかったのだろう、驚いた顔が隠せていない。
「じゃああの猫は……クリーチャー様…」
「クリーチャーって呼ぶのやめてよ。僕は名前を貰ったんだ。君も知っているだろう?」
「エル様…」
エリックとフレンチさんは未だに顔を伏せている。
エリックはというと少し額に汗が滲んでいるようにも見えた。
「僕は神の遊び相手としてこの世界に生み出されたんだ。」
『遊び相手……?』
「永い時を生きていた神は自分の周りの人物が変わっていくのを見てきた。だから自分と同じ永遠の存在を創造することにしたのさ。さすがに全員が不老不死だと神の絶対性が揺るぎかねないからね。」
前に自分は不老不死だとエルは言っていたっけ。
だとしたら彼は本当に、孤独だったんだ。
「僕は創造されて名前をつけられなかったんだ。それは別の人物がつけると神が言っていたからね。だから僕は君の為に生まれた存在だと後々気付いた。神の使い魔ではなく、君の使い魔としてね。
でもまぁ、ヴァレールも寂しかったんだろうな。」
神を呼び捨てで呼ぶ彼
彼は大天使よりももっと高等で神に最も近い存在だと感じた。
「僕の主人はアリシアだけだ。」
そう言って私の頬にキスをする。
突然の出来事に反応出来ずにいると宙が急に立ち上がる。
そして無言でエルと見詰め合うと私の手を取った。
「そんなに警戒しなくても、アリシアは僕に見向きもしないよ。」
「そんなことわかんないだろ…」
何の話をしているのかとふたりを交互に見る。
エリックは立ち上がってフレンチさんとなにやら目を合わせていた。
「とりあえず、戦闘なら僕が彼女に教えるよ。」
「は、はい!」
エリックはまたもや跪いて頭を垂れる。
エルが私に戦闘を教えるの……?
なんだか悪い予感がしてならなかった。

