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『いっつつつ』
運動はそこそこできる方だったが彼らに取ったら全然だめ。
こちらの世界で体力テストなんかしたらきっと圏外の判定がつきそうだ。
全身の筋肉が悲鳴をあげていて歩くのも生まれたての小鹿のようになっている。
今日が初訓練
といっても戦いまでに時間はないだろう。
夜の空気が吸いたくて神殿を抜けて少し街の方に向かって飛ぶ。
魔界と違ってずっと昼ってことはないみたいだ。
本当に美しい場所…
ゲートの中がこんなに広い世界になっているなんて……
聞いたところによると、ゲートさんのいる世界よりも何倍も広いらしい。
「ゲホッゲホッ……!」
え?
誰かが咳き込む声が聞こえて声が聞こえる方へ降り立つ。
「うっ…げほっ」
『大丈夫ですか……?』
「だれ!?」
月夜の光に照らされて、女性の綺麗な長い髪が煌めく。
「その髪……あなた…ゲホッゲホッ」
『あ、無理をしないでくださいっ』
彼女の手を見ると血がついている。
嘘……
「私、不治の病らしいの」
『……ぇ』
「ごめんなさい、会ったばっかりの貴女にこんなこと言うなんて、神様に縋っているみたいだわ。
天使で病に合うなんて本当にいままで聴いたこともなかったのに……」
彼女は血を地面の草で拭って立ち上がる。
本当に、救えないの?
『待って、私の……私の血を飲んではいかがですか?』
「……え?」
『私の血なら、もしかしたら貴女を癒せるかもしれない。』
「私達は悪魔じゃないわ。血は飲まないの。」
そうか、悪魔は血を好むけど天使は神水を飲むとか言っていたっけ。
『神水に私の血を混ぜてみるのはどうです?』
「血を飲むなんて……おぞましいわ」
『でももしかしたら、少しでもよくなるかもしれません。』
それでも瞳を泳がせている彼女
私は近くの川に歩み寄り小さな器を創造しそこに水を掬い入れる。
そして護身用の短刀を取り出して少しだけ肌に当てた。
「な、なにしてっ」
女の人は顔を真っ青にしていたがお構いなしに少し出てきた血を水の入った器に入れた。
『どうぞ』
「え…」
恐る恐る器を受け取って可愛らしい鼻をびくつかせる。
「いい香り……でも、これは血だわ…」
頑固な彼女を急かすように私は彼女の震える手にそっと触れる。
『大丈夫、よくなるわ』
ーコクッ
水が喉を通る
その音を聴きながら彼女を静かに見つめた。
「すごい…体が熱いわ、芯から力が湧いてくる。」
またひとくち、ひとくちと何回か口に運ぶ。
『これを継続して様子見をしましょう。』
「……どうして、会ったばかりの私に優しく?」
『私も…誰かの救世主になりたいなって思ったんです。不純ですよね。』
苦笑いをしてみせると彼女は私を優しく抱き締めてくれた。
ふわりと柔らかな花の香りがする。
「ありがとう……本当にありがとうございます
アリシア様……」
震える声、怖かったのだろう
彼女の背中を摩ってあげる。
そしてこの出逢いが今後の動きに大きく関係するなんて思いもしなかった。

