ーコンコンコン ガチャッ
一定のリズムで扉が叩かれ、そして開く。
ぱっと目に付くベランダ付きの大きな扉と、そこから覗かれる大きな大きな月。
それを背景に美しい少年が憂いを帯びた表情で窓枠に腰を乗せていた。
そしてその腕の中で静かに眠る伊織。
『伊織っ』
思わず大きな声が出て口を抑えた。
ーガチャン
瑠璃が扉を閉じて後ろから見ている。
視線がべったりと私にくっついていて、不快だ。
「来たのか」
来たのか……?
呼んだのはあんたでしょう?
今にもキレてやりたいところだが交渉に冷静さは不可欠。
「条件は簡単だ。お前とこいつが交換条件。」
「意外だね。いつもなら暴力で解決するのに。」
宙はさも忌々しげに言い放つ。
このふたりは兄弟なのに、こんなにちがう。
「……こいつには、愛してくれる親がいるだろ。」
思わず耳を疑った。
今のセリフを、彼が言った。
あの玲夜がだ。
力こそ全てだと言わんばかりの彼が、まさかそんなことを言うなんて。
「俺達にはなかった。」
「……」
『伊織を返して貰えるのなら、喜んで貴方達についていくわ。』
「やめろっ」
声を荒らげたのは宙だった。
その声に負けじと声を張る。
『命の価値に差なんてない。……そんなの、悲しいでしょ。』
「それでも、君はダメなんだ。」
泣きそうな顔で見られると私は敢えて笑って答える。
『大丈夫、宙が私を殺してくれるんでしょ?』
「っ……」
「交渉成立だな。」
宙と夕紀は何も言えないのか唇を噛んでいた。
相手が戦闘を望まないんじゃ、対抗もできないのだろう。
『宙』
彼の首に抱きつきそっと囁く。
『好きだよ。』
そしてそっと頬へキスをした。
ぼーっとしている宙に笑いかける。
『さよなら』