「……なるほどね。まあ、深いことは聞かないよ」


 見極めるような眼差しで私を射ていた橘さんは、ふっと口の端を緩めて肩を竦めた。


「契約成立ってことで。よろしくね、サキちゃん」


 彼がブランデーのグラスを私に掲げる。そのグラスに、私の持つそれを軽くぶつけた。

 カン、と、細く甲高い音がふたりの間に響いて。


 静かなバーの片隅で、ふたりだけの愛人契約が成立した。



「……負けませんよ」

「はは、楽しくなりそうだね」


 これは一種のゲームだ。


 彼が私を利用して、私が彼を利用する。彼にどんな事情があるのかは知らないけれど、私のプライドにかけて、絶対に主導権は渡さない。