ストレイキャットの微笑




「いやあ、今日サキちゃんの店に行ったのは気まぐれだったけど、行って良かった。愛人になってくれる子を探して色んな店を回ってたんだけど、なかなかピンとくる子がいなくてね」


 グラスを置き、彼はつまみのチョコレートを口に運んだ。橘さんなら自分から行かなくても、女の子たちの方から寄ってきそうな気がするけど。

 私の視線から言いたいことが分かったのか、彼は私に向き直って苦笑してみせた。


「愛人……というか、彼氏やパパになってくれって向こうから言ってくるのは何人かいたけど」

「そうですか」


 予想はしていたけれど、さらっと言われると腹立たしい。まあ良いものを身に付けていて財力があり、さらに顔が整っているとくれば、パパを探している子にとっては理想的な人物だろう。



「――それで、橘さんは愛人に何を求めてるんですか」


 女の子の方から云々は鬱陶しいので聞き流して、とりあえず大事なところを聞くだけ聞いてみる。


 この男が信用に値するとは思っていない。けれど、この男は恐らく女を陥れようとするようなタイプじゃない。

 根拠などないただの勘だけれど、長く夜の世界にいて、客を見極める目は自然と身に付いていた。