「それはそうなんだけどさ。俺、サキちゃんの顔好きだし」
「生憎私は好きじゃないです。橘さんの顔」
橘さんは綺麗な顔をしていると思うし、街中ですれ違った女の子の多くははきっと振り返るだろうとは思う。でも特にタイプではない。やたら整った甘い顔してるなあ、くらいの感想だ。
それに、女の反応を見て遊ぶような男を好きになれるほど、私は寛容な人間じゃない。
「あはは! そういうところも良いよね。すっごい好み」
「マゾなんですか」
「いや、どっちかって言うとサドかな。試してみる?」
私の巻いた髪に指先で触れ、橘さんはブラウンの瞳を扇情的に細めて笑んだ。どうしよう、殴りたい。
結構です、と短く告げて、出されたカクテルをひと口飲んだ。強めの炭酸がツンと喉を刺激する。

