ストレイキャットの微笑




「店でサキちゃんと一度すれ違ったんだけど、キャストの子とすれ違う時に素通りしなかったのはサキちゃんだけだったから。礼儀正しい子だなと思ってね」


 店内でお客様とすれ違う時には、必ず立ち止まって会釈をするのが私のポリシーだ。そういえば今日も席を移動する時、何人かの客とすれ違ったような記憶はある。

 店内は暗いし、橘さんとすれ違ったことは全く覚えていないけれど。


 ……それはそうと、この状況をどうしよう。お店に何万も落とすのが嫌で、直接金銭のやり取りをしようと持ち掛けてくる客は確かにいる。


 けれど、それを受けたことはない。愛人という関係の真意は知らないが、厄介事に巻き込まれるのは御免だ。


「礼儀正しい子なんて、私以上の子がたくさんいますよ。他を当たってください」


 愛人だなんて都合の良いことを言われて、適当に遊ばれて捨てられるなんて馬鹿馬鹿しいことこの上ない。

 客としては魅力的だけれど、簡単にその一線を越えられるほど、私はこの男を信用することができない。