場内に延長、挙げ句クリュッグまで下ろしてもらって、私は少し浮かれていた。橘さんが次に言葉を発するまでは。


「サキちゃん、今日お店が終わった後空いてる?」

「今日ですか?」


 グラスのアイスをステアしながら、心の中で舌打ちする。


 店の外でお客様に時間を使うのが嫌いな私は、アフターも同伴もよほどの太客でなければやりたくない。だいたい、同伴は同伴バックが入るしその日はお茶を引くこともなくなるからまだ良いけど、アフターなんて正直身の危険しか感じないし。


 ……だけど、橘さんにはシャンパンを入れてもらっているから流石に断りにくい。さっきのクリュッグは明らかにこのためだ。きっと最初から、このつもりだったに違いない。断れないと知っていて誘ってくるんだから、本当に質が悪い。


 あー、もう。


「――1時間くらいしかお時間とれないんですけど、良いですか?」