「メニュー見られます?」

「いや、いいよ。クリュッグあるでしょ?」

「え?」


 すらりと放たれたシャンパンの名前に、思わず声が出てしまった。


 クリュッグ グラン・キュヴェ・ブリュット――うちの店では、1本あたり6万円。


 随分とキレイな遊びをする人だとは思っていたけど、これは相当慣れてるなあ。ちょっとお金持ってる人は、バカのひとつ覚えのようにピンドンを下ろしたがるから。


 ちなみに私はシャンパンがお酒の中でも割りと好きだけれど、クリュッグはその中でも特に好きだ。


 もともと好感の持てる遊び方にクリュッグが加わり、橘さんへの評価はうなぎ登りだ。リピートは難しそうだけれど、指名で返せたらかなり大きい。なんとかして引っ張れないかな。