オフィスを出て一人になり、冷静になろうと頭の中で考えてみる。


　矢崎に彼氏がいる……


　最近俺と一緒に居ないのはそう言う事なのか？

　彼氏に誤解されたくないとでも思ったのだろう……

　好きな奴の事でいっぱいで、俺など目に入らないって事なのか？


　俺の頭の中は、矢崎の事がグルグルと回っていて、自分でも驚くほど動揺していた。


　だが、矢崎から真実を聞く事を恐れて、勝手な自分の考えだけで全てを判断してしまっていたのだ。


　俺は、いつからこんなに矢崎の事を気にするようになっていたのだろうか……



　ラーメン屋の前でふと足が止まった。

　矢崎と一緒に食べたい……　

　そんな事を思ってしまう自分が情ない……

　
　俺は、ラーメン屋のドアを開けずに駅へ向かった。


　まるで、心に鍵が掛かってしまったような音が虚しく胸の中に響いた。




　「駿！」亜由美の声だ……　


　俺は又、整った笑顔を作った。


　腕を絡ませた亜由美と、そのままホテルへと入った。


　流れるまま、俺は亜由美を抱いた……


　何の幸福感も無く、ただ、情けない罪悪感だけが残った。


　自分でも最低だと分かっている。


　どうして俺は、矢崎を好きだと言う気持ちから逃げてしまったのだろう……