明日の打ち合わせの段取りを済ませオフィスを出ると、とっくに定時を過ぎていたのだが、目の前に矢崎の後ろ姿があった。
声をかける事に少し戸惑ったが、同じ企画のチームなのだから不自然では無いと自分に納得させた。
この時すでに、俺は矢崎ともっと話がしてみたいと思っていたのだろう……
「矢崎……」
後ろから、そっと声を掛けた。
「あっ。お疲れ様です」
矢崎は驚いた表情でペコリと頭を下げた。
「お前の言う通り、姫川は突然笑い出すんだな」
「分かってもらえました? でも、あの笑い声に救われる事が多いんです。」
楽しそうに話し、決して相手のフォローを忘れない彼女の言葉に好感を持った。
「そっかぁ」
俺は、矢崎の横に並んで歩き出した。
「でも、私が言っていた事は皆に黙っていて下さいね」
下から、お願いとばかりに見上げる矢崎の目が純粋すぎて、つい意地が悪くなってしまう。
「ええ――。黙っていられるかな?」
「絶対ダメですからね…… 私にも立場ってものがあるんですから」
「立場ねえ……」
やっぱり、面白い子だ。
思わずニヤリとしてしまった。
ふうっとラーメンの匂がしてきて、腹が減っていた事に気付く前に、矢崎の腹の虫が鳴いた。
気付かない振りが親切だとは思ったが、何故か俺は矢崎の空腹を満たす道を選んだ。
「ラーメン食ってくか? 俺も腹減った……」
「で、でも……」
当然、矢崎はためらったが……
「どうせ、コンビニで弁当買うつもりだったから付き合えよ」
俺は、半ば強引に誘う形でラーメン屋へと入った。
「俺、生ビールととんこつ、それと餃子」
「私も、とんこつで……」
矢崎の目が、楽しい事を見つけた子供のように見えた。
「ビールは?」
「いいんですかぁ?」
矢崎の顔は明らかに緩んだ……
単純な奴だと思ったが、嫌では無くふっと笑ってしまった。
店員がテーブルにビールのジョッキを二つ置いた。
矢崎と、軽くジョッキを交わし口に運ぶ。
「美味しい…… 幸せ……」
矢崎の飾り気のない素直な言葉に、俺はたまらず笑いが毀れてしまった。
「大げさだな……」
「いいんです。一日頑張ったご褒美ですから……」
「おい。普通は上司の俺が言うセリフだろ?」
俺は呆れて言った。
「あっ、そうですね…… 人から言われないので、自分で言っているだけなんで気にしないで下さい」
俺は矢崎の言葉が胸に少しひっかかったが、何故だか解らなかった。
矢崎は箸を手にしてラーメンをすすりはじめた。
「美味しい……」
本当に美味しそうに言う彼女に、何故か俺は安心してラーメンをすする事が出来た。
今までの彼女達は、ラーメンなどとても誘える相手では無く、イタリアンだの高級和食懐石だの注文を付けてきたが、けして矢崎のように幸せそうに美味しいとは言わなかった。
俺はなんだか満たされた気分で、矢崎の姿を見ていた……
声をかける事に少し戸惑ったが、同じ企画のチームなのだから不自然では無いと自分に納得させた。
この時すでに、俺は矢崎ともっと話がしてみたいと思っていたのだろう……
「矢崎……」
後ろから、そっと声を掛けた。
「あっ。お疲れ様です」
矢崎は驚いた表情でペコリと頭を下げた。
「お前の言う通り、姫川は突然笑い出すんだな」
「分かってもらえました? でも、あの笑い声に救われる事が多いんです。」
楽しそうに話し、決して相手のフォローを忘れない彼女の言葉に好感を持った。
「そっかぁ」
俺は、矢崎の横に並んで歩き出した。
「でも、私が言っていた事は皆に黙っていて下さいね」
下から、お願いとばかりに見上げる矢崎の目が純粋すぎて、つい意地が悪くなってしまう。
「ええ――。黙っていられるかな?」
「絶対ダメですからね…… 私にも立場ってものがあるんですから」
「立場ねえ……」
やっぱり、面白い子だ。
思わずニヤリとしてしまった。
ふうっとラーメンの匂がしてきて、腹が減っていた事に気付く前に、矢崎の腹の虫が鳴いた。
気付かない振りが親切だとは思ったが、何故か俺は矢崎の空腹を満たす道を選んだ。
「ラーメン食ってくか? 俺も腹減った……」
「で、でも……」
当然、矢崎はためらったが……
「どうせ、コンビニで弁当買うつもりだったから付き合えよ」
俺は、半ば強引に誘う形でラーメン屋へと入った。
「俺、生ビールととんこつ、それと餃子」
「私も、とんこつで……」
矢崎の目が、楽しい事を見つけた子供のように見えた。
「ビールは?」
「いいんですかぁ?」
矢崎の顔は明らかに緩んだ……
単純な奴だと思ったが、嫌では無くふっと笑ってしまった。
店員がテーブルにビールのジョッキを二つ置いた。
矢崎と、軽くジョッキを交わし口に運ぶ。
「美味しい…… 幸せ……」
矢崎の飾り気のない素直な言葉に、俺はたまらず笑いが毀れてしまった。
「大げさだな……」
「いいんです。一日頑張ったご褒美ですから……」
「おい。普通は上司の俺が言うセリフだろ?」
俺は呆れて言った。
「あっ、そうですね…… 人から言われないので、自分で言っているだけなんで気にしないで下さい」
俺は矢崎の言葉が胸に少しひっかかったが、何故だか解らなかった。
矢崎は箸を手にしてラーメンをすすりはじめた。
「美味しい……」
本当に美味しそうに言う彼女に、何故か俺は安心してラーメンをすする事が出来た。
今までの彼女達は、ラーメンなどとても誘える相手では無く、イタリアンだの高級和食懐石だの注文を付けてきたが、けして矢崎のように幸せそうに美味しいとは言わなかった。
俺はなんだか満たされた気分で、矢崎の姿を見ていた……