すれ違った鍵の音……

 会社へ戻りオフィスのドアを開けると、又、木島さんの姿があった。


 相変わらず綺麗で、テキパキとしている。

 今の自分とは情けないくらいに違う……


 木島さんみたいに素敵な人は、課長とお似合いだ。

 私みたいな何の取り柄もない女は、仕事もせず最低な奴くらにしか、相手にされないのだろう…… 



 打ち合わせを終えた木島さんが、課長の元へと歩み寄って行った。


「野川課長、お疲れ様です」

 木島さんがニコリとほほ笑んだ。


「ああ、お疲れ様」

 課長が驚き、一瞬怯んだのは気のせいだろうか?


「あ―。木島さん、課長の彼女って本当なんですね。美男美女でお似合いです」

 姫川さんの言葉が、胸にグサッと冷たく突き刺さる。


「そんな大げさな…… お世話になっています、宜しくお願いしますね」

 木島さんが、課長は自分の物だと言ったように思えた。


 だが、課長は何も言わず視線をパソコンへ戻した。


 私は、会話に触れられないよう、そっと席を離れようと立ち上がったのだが……


「矢崎さん、大阪支店の開発部の木島さんよ。以前私達が係わった、モール店舗が大阪にも出店するのよ、その解発チームのチーフを担当されているのよ」


 姫川さんの言葉に、背を向ける訳にも行かず、木島さんに向き合い頭を下げた。

「はじめまして、矢崎です」


「木島です。又、お聞きしたい事もあるかも知れません。よろしくお願いします」

 木島さんは、綺麗な笑顔を向け軽く頭を下げた。


「それで、野川課長の彼女なんですって」

 姫川がおどけて言った。

「恥ずかしいわ」


 木島さんがチラリと野川課長を見た。


「そうなんですか。素敵なカップルですね」

 私は精一杯の笑みを見せた。


「そういえば、矢崎さん彼氏出来たんだね?」

「えっ」

 突然の姫川さん言葉に、驚いて顏を上げた。


「総務の子が、やさしそうな男の人といる所見たって言っていたわよ」


 この状況に自分も彼氏がいると言った方が、気持ちが楽になるような気がしてしまった。


「ええ、まあ……」


「矢崎さん、可愛らしいもの、彼氏くらいいるわよね」

 木島の言葉が、嫌味にしか聞こえない。


 顔を上げると、何故か厳しい表情の課長の目と合ってしまった。


「無駄話してないで、仕事に戻れ!」

 課長の厳しい言葉に、それぞれ自分の仕事を始めた。


「おじゃましてごめんなさいね」

 木島は、チラリと課長を見てほほ笑むと、オフィスの出口へ向かって行った。


 心の中に、どうにもならない苦しさだけが残ってしまった。