「謝らないでください。あの時の状況では、無理もない」

「あ……それに私、あの時殿下のマントをお借りしたままで……」


一度思い切って言ってみると、セドリックと話さなければいけないことは、アデルの口から次々と零れる。


そう、あの夜セドリックが貸してくれた、王家の紋章が縫いつけられた緋色のマントは、今でもアデルの部屋の箪笥に吊るしてあるのだ。
あれをどうやって返せばいいか。
最初のうちは頭を悩ませていたが、手段がなく一ヵ月もの間、そのままにしてしまっていた。


口ごもりながら両手の指を軽く交差させるアデルに、セドリックは静かに口を開いた。


「だったら……一ヵ月後に」

「え?」

「王宮で、また僕の妃選びのパーティーが行われるんです。……前回の仕切り直しというか」


セドリックは少し恥ずかしそうにはにかみ、金色の髪を柔らかく掻き上げた。
アデルはドキンと胸の鼓動を弾ませながら、その言葉の続きを待つ。


アデルの無言で、促されているのを感じ取ったのか、セドリックは笑みを引っ込めキュッと唇を引き結んだ。
そして再び開いたその口から、真っすぐ短い言葉を続ける。


「君も、来てもらえませんか」


そう言ったセドリックの顔は、緊張を隠せず強張っていた。
アデルにも、彼の本気は伝わってくる。
アデルは黙ったまま、胸元で無意識に手を握り締めた。