セドリックはパーティーに到着した途端、たくさんの『仮面の姫君』の中から、たった一人のアデルを見つけ出したのだ。
それが感じられるから、アデルの胸がきゅんと音を立てて疼く。


不覚にもときめいている自分に気付き、戸惑って逃げる余裕もないまま、アデルはセドリックに腕を掴まれていた。
その手の力強さにビクッと震え、アデルは一瞬身体を強張らせてしまう。
しかし。


「姫、逃げないで」


仮面の向こうのサファイアのような蒼い瞳が、自分への狂おしい想いに揺れ、切なげに細められるのを、アデルはしっかり感じ取ってしまう。
腕を振り解くこともできないまま、アデルはセドリックに強く抱き締められていた。
思わず身を竦ませるアデルの肩に額をのせたセドリックが、小さく震えた声で彼女の耳元で呟く。


「もう二度と逢えないかと思ってた……。良かった。逢えて、良かった……逢いたかった……」

「っ……」


その言葉は『アデル』に言われたものではない。
『アデル』を思って告げられた想いではないとわかっていても、アデルの心は大きく揺さぶられ、震えた。


セドリックの強く激しい恋心の前に晒され、アデルは正しい答えが何かわからなくなってしまうほど、混乱していた。
セドリックに掻き抱かれたまま、抵抗する術も見失ってしまった。