それなのに、どうしてセドリックを嫌だなどと言えるだろう。
すべてを隠したままアデルがはっきりとお断りしたら、セドリックはどんな表情を浮かべるのだろう。


あの美しいサファイアの瞳を曇らせ、塞ぎこむセドリックを見るのは辛い。
そして、そうさせるのが自分だなんて――。


そんな思いに駆られ、アデルの胸がズキッと痛んだ、その時。


「……姫っ……!!」


人々の喧騒を裂くような鋭い声が、真っすぐにアデルの耳に届いた。
アデルはハッとして勢いよく顔を上げ、そして声がした方向に視線を向ける。


たった今到着したばかりの様子のライアンが、仮面の下の目を丸くして、広間のドア口に立ち尽くしている。


「セディ!」


ライアンの口がそう動く。
彼は、大きく前に伸ばした手を宙に止めたまま、呆然とした様子で口を開けていた。


アデルの瞳の中で、金髪の王子……ライアンと同じ、目元だけを隠す仮面をつけたセドリックの姿が、どんどん近付き大きくなっていく。
恐らく彼は、ライアンの制止を振り切ったのだろう。
何かに駆り立てられたように、セドリックはダンスを楽しむ人々の群れを縫い、その視界の真ん中にアデルだけを据えて真っすぐに走ってくる。


見つけられるんだろうか?なんて、心のどこかでセドリックを試した自分が恥ずかしくなるほどだった。