ライアンに来るように指示された貴族の別邸は、城下町近くにある。
馬車に揺られているうちに日は沈み、目的の屋敷の前に着いた時、辺りにはすっかり夜の帳が下りていた。
暗闇の中だというのに、その屋敷には明るく賑やかな空気が漂っている。
今、屋敷の中では、貴族の『お忍び』、仮面舞踏会が催されているのだ。


ライアン曰く、『全員仮面で顔を隠している場所でなら、アデルとセディばかりが目立つことにはならない』。
要は木を隠すなら森の中ということだろうが、アデルはそこにまた違う思考を重ねていた。
ライアンの言う通り、セドリックの誕生パーティーの時と違い、仮面を身に着けたアデルはここでは目立たないだろう。
だからこそ……。


(『仮面の姫君』だらけの舞踏会で、セディは私を見つけられるのかしら?)


城で行われたパーティーとは比較の対象にもならないほど、広間は狭く、また豪華絢爛とも言えない。
それでも『仮面舞踏会』という雰囲気だけで、広間は華やいでいる。
ライアンから借りた仮面で顔を覆い、広間に足を踏み入れたアデルは、心の中でセドリックに見つからなければいいと願っていた。


ライアンは『王家の為』という言葉でアデルを説得し、このパーティーに参加するよう命じた。
しかしアデルも、親友としてセドリックを『応援したい』と言ったライアンの気持ちは、痛いくらいよくわかる。