もちろん、正式な招待客ではなかったあの姫君が、出席するはずがない。
候補者の中に恋焦がれる姫君がいないまま、セドリックは妃を選び、求婚しなければいけない。


忘れなければ、とわかっていても、一度知ってしまった恋心はそう簡単に消えて失くなるものではない。
来週のパーティーのことを考えるだけで憂鬱で気が重くなり、セドリックはほんのわずかでも羽目を外す気分にはなれなかった。


しかし、今日のライアンはいやに押しが強く、一度断ったセドリックに食い下がってきた。


「一ヵ月後には妃を選ばなきゃいけないんだろう? だったらその前に、これが最後のつもりで行こう、セディ」


ライアンは、一歩先を行くセドリックの肩を掴んで止めた。
セドリックはやや戸惑いながら彼を振り返り、その真剣な瞳を見つめる。


ライアンの瞳は、イエローが強い琥珀色で、それは父親の騎士団長とよく似ている。
血の繋がった兄妹でも、アデルのように濃く深いエメラルド色ではない。


アデルのような――。


「う、うん……」


セドリックはまだ躊躇いながらも、親友の誘いにただ頷いた。
ライアンの瞳を真っすぐ見つめて、どうしてアデルの美しいエメラルド色の瞳を思い描いたのか、それはセドリック自身にも上手く説明できなかった。