「セディ。またお妃のことでお咎めか?」


セドリックの後から追いついたニールが、自身が跨る馬の速度を落としながらニヤニヤと声をかけてきた。
兄の言葉に、セドリックは眉をひそめてただ黙り込む。


「お前の探す姫君……見つからないなら、父上の命令通り諦めるべきだ。いい話、来てるんだぞ」


恐らく、ニールが国王に報告する各国の使者への急ぎの返戻には、セドリックの縁談に関するものも含まれているのだろう。
ニールが近隣諸国の第一王女や第二王女の名を指折り数え上げるのを聞きながら、セドリックは忌々しい思いで小さな舌打ちをした。


それを聞き留めたニールが、わずかに不快気な表情を浮かべる。


「お前の気持ちもわかるがな、お妃決定がうやむやになってるせいで、立太子の宣明も延期になったままなんだぞ。日取りを再決定することもできない。フレイア国の王太子としての自覚を持ってくれ」


気色ばむニールに、セドリックはきゅっと唇を噛んだ。


『それならいっそ兄上が王太子になればいいだろう』と、ヤケになって言いたい気分だった。
しかし、それを口にすることは絶対に許されない。


第二王子であっても、セドリックは正妃を母に持つ王子だ。
彼が王太子になるのは、生まれ落ちた瞬間から決まっていたことだ。
これまでセドリックも、自分が国王になる未来を、たったの一度も疑問に思ったことはなかった。